重力式岸壁の地震時挙動
の計算方法

(1)はじめに、
重力式岸壁とは、船が岸に横付けするときの、
あの岸壁のことですが、
コンクリートの箱の中に砂と水を詰めて、
その重さで後ろの土を止める形式の土留め壁のことです。

next

早い話が、重力式岸壁は地盤との摩擦力で
土を止めています。
重力式岸壁は、
これまで震度法と呼ばれる設計法で設計されてきました。

next

ところが、神戸の地震では、
この重力式の土留め壁が、
前方に2〜3m(大きいところでは4〜5m)動き出してしまったのです。

next




そこで、より、耐震性を増やす目的で、
今までよりも設計震度をあげて設計することが考えられています。
しかし、震度係数を増やして堤体幅を大きくしたからといって、
実際に地震を受けたとき、その堤体は滑動しないのでしょうか?
もし動くとしても、堤体の移動はどの程度になるのでしょうか?
これらのことに、震度法はなにも答えられません。
はっきり言えば、震度法は、重力式の土止めの、設計に適していないのです。

みなさんは、地震の加速度という言葉を聞いたことがありますか?
おそらく、ガル(gal)などと言う言葉も聞かれたことがあるでしょう。
勿論、地震の加速度が大きいということが、土止め壁の崩壊に関係が
あるには違いありませんが、大きな加速度は地震の揺れの方向が変わるとき
などに、発生するもので、むしろ、足下をすくうように作用します。
一方、ケーソンが、遠くに投げ出されたことに注目すると、
「地盤の速度が大きいなら、その上に乗ったケーソンを、遠くまで
投げ出すことができる」と推論するのも当然でしょう。
そこで、ある大学の先生は、土止め岸壁のケーソンの移動は、
地震記録の加速度に比例するのではなく、速度に比例するのでないか?
といっていました。
このように、阪神淡路の地震当時は、震度法の加速度と、地震記録の加速度
に関して、混同と混乱が同居していたのでした。
いわば、それほど、震度法が、地震の現象を、誤解させていたのです。
しかし、実は
震度法よりも、はるかに実体を再現できる方法があります。

ここから、エクセルを開けば、あなたの設計の岸壁が、
神戸なら、どのくらい動くか、推定できます。



その方法、「重力式岸壁の堤体移動の追跡方法」を、以下に、ご紹介します。
この方法は、簡単で、誰にでもできるので、
私はこの方法を、広めたいと思います。

私が提唱する、計算方法は、
ニュートンの法則そのものです。
その際の、目の付け所は、
「"地盤の速度"と"堤体の速度"の差」
です。
もし、ある時間間隔dtの間に、「地盤の速度」と「物体の速度」が同じになるなら、
物体には地盤から次式で表される加速度αが
作用していなければならないはずです。
α={ (地盤の速度) -(物体の速度)}/dt



一方、摩擦力や土圧から、堤体に
与えうる最大の加速度は
以下の式で計算できます。

β={(摩擦力)+(土圧)}/(堤体の質量)

以上見たとおり、
もし、刻々計算されるαがβよりも小さい内は、
堤体はαなる加速度をもらう事が出来、
αがβよりも大きいときは
βを限度とする加速度を受けます。

よって、上記のαとβをもとに、
物体の運動は、
次式で計算できることになります。

Vi=Vi-1 + ai-1 dt

Xi=Xi-1 + Vi-1 dt+(1/2)ai-1 dtdt

ただし、aは加速度で、
αまたはβのうちの小さい方の値です。
(3)結果の紹介
まず、この方法による堤体移動の、
追跡計算結果をお示しします。

1)図―1(ケース1)は堤体背後の裏埋め土の厚さが変化しないと仮定して
堤体の変位を追跡したものです。
2)図―1(ケース2)は、堤体が移動すると、裏埋め土が崩壊面に沿ってずり落ち、
このことによって、裏埋め土の厚さが減少し、
土圧が減少することを考慮したものです。
3)図―1(ケース3)は、堤体の幅を
2倍にし、堤体の動きを追跡した。
この場合の裏埋め土の層圧は、堤体の移動とともに減少するものとした。
4)図―1(ケース4)は、堤体の幅をはじめの3倍にして、
堤体の動きを追跡した。
この場合も、裏埋め土の層圧は、堤体の移動とともに減少するものとした。


5)図―1、の振動周期は T=1.0 sec 、
振幅は 50 cmを用いている。
よって、地盤の位置 X は次式で表される。
 X=0.25 sin(ωt),
ω=2π/T=6.24 である。
ちなみに、この場合、加速度は 最大で約 9 m/sec2 である。
6)よく、地震の強弱を表すために、
地震の加速度が何ガルであったなどと言いますが、
加速度が移動量を支配しているのでしょうか?

今回の堤体の移動量の追跡においては、
地盤の振動をX=a sin(ωt) という式を用いて表現していますが、
この式の形から分かるように
、速度はXを1回微分すれば得られ、
加速度は X を2回微分すれば得らる。
ただし、速度の最大値と加速度の最大値は90度の位相差がある。
たとえば、速度の最大値は、V=aωで現され、加速度の最大値は、
α=aω2 で表される。いま、
ω=2π/Tだから、周期を短くすると、速度V、加速度αともに増加する。
しかし、その反面周期が短ければ、
力の作用時間も短くなる。
このように、周期の逆数が、
「速度」および「加速度」の大きさを支配し
、かつ、周期自身が力の作用時間を支配するので、
いわば、周期は、分母に来たり、分子に来たりして、構造物の挙動に関係します。
実際、堤体の移動量を周期の大小で予言することは困難です。
よって、周期が堤体の移動量に、
どのような影響を与えるは、
周期を変えて堤体の移動量を見るにしかずです。(図―2参照)

(4)計算結果から分かること。
以上ご紹介した結果は、シンプルなモデルであり、
また、ケースも十分ではありません。
しかし、これまで、疑問のままであった「現象の説明」のいくつかには、
明快な回答を与えています。
それらは、以下のことです。

1) X=0.25 sin(ωt)、T=1secというような、非常に大きな地盤振動を与えた場合、
重力式岸壁の堤体が7mのとき、
5波で 2.5m 程度滑っており、
堤体幅が3倍の21mのとき、1.5m 程度滑っている。
つまり、振幅の大きい強い地震のときには、
堤体を大きくしたからと言って、滑動をゼロにするのは困難であろう事が推定される。

2)堤体が動くことについては、地震の「加速度」または「速度」
だけに注目するべきではない。
大事なことは、地盤と物体のあいだの力の受け渡しの大きさ
と、その作用時間である。
当然作用する力が弱ければ、
堤体はあまり動かないし、
また力の作用時間が短くても、堤体はあまり動かない。
たとえば、だるま落としのように、
力の作用時間が極めて小さいならば、重い物体はほとんど動かない。

3)堤体が大きく動くのは、
a.背後に土があることにより、壁体が強い力を受けることが出来、
b.地震の振幅が大きく、
c.周期が「適当に」短い場合であることがわかる。

4)ゆえに、重力式の岸壁を動き難くするためには、
背後の土を取り除く(つまり、土圧がかかりにくくする)のが第1に有効であり、
第2には、動き始めた提体を、大きな抵抗で止めるための、
根入れや、クイ、あるいは、アースアンカーなどが有効であろう。
なお、堤幅を増やすのは、コストの上から考えて、
あまり得策でない。

(4)追加的考察(ロッキングについて)

震度法での、堤体の安定検討においては、
滑動と転倒の両面から検討している。
震度法は、静的な釣り合いを見るものであって、
実際の地震の状態と異なる。
それは、地震の場合、地盤が右に動くことによって、
堤体が倒れはじめても、こんどは、地盤が左に動いて、
堤体が倒れずに済む場合もあるし、

next


堤体が倒れると思ったとき、堤体が滑って、
倒れずに済む場合も出てくるからである。
図―3における、ロッキングのモデルは、
1) 外力のモーメント=(底面に、現に生じている摩擦力)x(堤体重心までの距離)
2) 堤体のロッキングモーメント=(堤体の足先から堤体重心までの距離)x(上向きの力)
3) 外力のモーメント=堤体のロッキングモーメント
4) 上記によって、(上向きの力)を求め、堤体重心の、上下方向の挙動を追跡する。
というものである。

next



堤体幅7mの場合で、
地震が、X=0.25 sin(ωt), (ω=2π/T, T=1.0 sec)では
ロッキングが起こりにくいので、
X=0.5 sin(ωt), X=0.75 sin(ωt),等の大きな振動を与え、ロッキングを起こして表示してみた。

next

図―9に於いて、時間とともにロッキングが起こらなくなっているのは、
堤体の水平移動に伴って、背後の土圧が減少することが反映されたものである。

next



あなたの設計の岸壁が、
神戸の地震で、どのくらい動くか、ここで、計算できます。

ダブルクリックで、エクセル2000が立ち上がります。
マクロを有効にするを選んでください。
top